◎尾川 泰将

 サバ根、エビ根、カサゴ根。漁場として、あちこちでよく耳にする名称です。これらはそのまんま、サバが集まる根、エビ(主にイセエビ)が住む根、カサゴが着く根ということでしょう。

 Wednesday尾川です。今回は調べてみるとけっこうおもしろい漁場の名の由来を、推理しながら楽しんでみましょう。

その1
ワラサ根、イラ根、アマデバ……といった魚名がらみ

 ワラサ根は沼津の内浦湾にある巨大な根。これもそのままワラサが釣れる場所ということでしょうが、ブリではなく「ワラサ」と限定する珍しいパターン。たしかに秋~初冬はワラサが回遊する場所です。
 続いてイラ根。三浦半島の下浦沖のほか、数ヵ所で耳にしたことがあります。イラといえば全長50センチ近くに成長するピンク色の珍魚。でも個体数は少なく「イラ根でイラ入れ食い」なんて話も聞かない。


 推理すると、イラはベラ科の魚ですから「ベラ類が着く根」という意か? たしかに下浦沖のイラ根は、カワハギ釣りの最中に、ササノハベラがジャンジャン釣れるんですよ。
 そしてアマデバ。三浦半島の秋谷沖にあるアマダイのポイントです。たぶん「アマデェがよく釣れる所だべ」ということで、アマデェ場→アマデバになったのではないか、と。

 

その2
フジヤマダシ、トシマダシ、などの「ダシ」がらみ

 ダシ=出し、と思われます。山ダテの見通し線に、漁場の目印が「顔を出す」という意味。

↑江ノ島が岬から顔を出すイメージ画像。ここが好ポイントならエノシマダシと呼びたいところ


 山や岬の端から富士山が顔を出す釣り場をフジヤマダシ、伊豆諸島の利島が見え始めるポイントをトシマダシと呼んだりするわけで、末尾にダシと付く漁場は各地域に数限りなくあります。

 

その3
サク根、カンネコ、ロペッチョ、といった謎? がらみ

 サク根と名付けられた漁場も、関東から東海エリアにたくさんありますね。大昔から存在する名称ですから、魚がサクサク釣れる場所、という能天気な由来でないことは明白……。
 調べてみると「さく」という言葉には「岩に凹凸がある」という意味合いがあるようで、サク根=起伏の激しい岩礁帯ということじゃないか? と推理しています。

 続いてはカンネコ。アカムツ釣り場として知られる茨城の名漁場ですが、漢字では寒猫と書くとか。由来を地元の人に聞いても「わがんねっ」という返答ばかりでしたが、ある70過ぎの老船長だけは、
「寒い時期、ネコザメがいっぱい集まる場所だから……って昔聞いたことあっぺ」と答えてくれました。
 たぶんそのサメはネコザメではなくて(本種は浅場に生息)、模様がよく似た深場に棲むヤモリザメの仲間と思われますが、なるほどカンネコは小さなヤモリザメがよく釣れる。正否は不明ながら私はこの説に乗っかります。

 最後はロペッチョ。鎌倉沖にある釣り場です。ロハッチョウともいい、漢字だと櫓八丁と書くらしいのでそれが訛ってロペッチョ?
 この名称、ひょっとすると八丁櫓(はっちょうろ)という江戸時代の船に由来があるのかもしれません。櫓一本は「一丁」と数え、8本の櫓=八丁の櫓が付いた船を指します。
 つまりロペッチョは、8人の漁師が八丁櫓に乗り込んでこぎ出す、沖の釣り場ということか? ちなみにこの船は、当時としてはかなりの高速だったようです。
 と、ふと頭に浮かんだのが葛飾北斎の冨嶽三十六景「神奈川沖浪裏」。大波をもろともせずに進む船(漁船ではなく押送船?)のこぎ手を数えるとやっぱり8人。高速人力船「八丁櫓」でした。

↑グーグルピクチャーより抜粋

 かように、めくるめく妄想にひたることができる不思議な漁場の名。まだまだ続くステイホームの暇潰しに、あなたも調べてみては?