◎尾川 泰将

 一旦は中断した黒潮大蛇行が再開し、しばらく続くという予想に切り替わりました。研究者によっては「年末まで続くのでは」と予測してますが、いずれも推測であって最終的な終息宣言は気象庁の発表を待たねばなりません。

↑最近の黒潮流路。見事な大蛇行……(関東・東海海況速報より転載)

 

 ともあれ現時点で黒潮大蛇行は約3年6カ月を越え、気象庁が統計を取り始めた1965年以降、史上2番目の長さとなっています。

 継続期間が最も長かったのは、1975年からおよそ4年8カ月続いたもの。この期間中に起きた水産業への影響を調べてみると、

・黒潮の離岸にともない、カツオ漁場が遠くなった。

・栄養が少ない黒潮が沿岸に波及し続け、磯焼け(海藻が育たない)が進行。それを捕食するアワビなどの品質、漁獲も低下。

・八丈島のキンメダイが不漁。黒潮流路から外れて潮の動きが悪くなったことが一因とされる……などが挙げられます。

 さらに生活面では、大蛇行の影響で潮位が高い状態が続き、台風や低気圧が近づいたときに広範囲で高潮被害が発生。

 近年も各地で高潮による災害が頻繁に起きていますから、とくに台風シーズンは、今年も注意が必要です。

↑磯焼けで枯れたカジメのイメージ画像(静岡県水産海洋研究所HPより転載。2005年の資料より)

 

 興味深い報告もあります。
 東京都水産総合センターによると「2018年以降、八丈島でクロマグロの漁獲量が増えている」とか。
 通常、八丈島でとれるマグロ類は南方種のキハダが大半なのに、ほとんど漁獲されることがなかった30キロ以上のクロマグロが頻繁に捕れているそうです。

 そこで同センターが過去の水揚データと照らし合わせてみたところ
・黒潮大蛇行と重なる期間にクロマグロが増える。
・一方、前述のとおりキンメダイは減る。
 との傾向をつかんで報告書に記載してます。

 黒潮大蛇行は「南方の珍魚」を沿岸に運んで魚類好きの釣り人を楽しませてくれる側面もあるのですが、温暖化と相まって、海洋環境の招かざる変化を加速させている気がします。

 磯焼けが終息し、暦どおりに四季の魚を釣って味わう。そんな環境に早く戻ってほしいと願う、Wednesday尾川でした。

↑水深400メートルの海水温推定図(2月23日)。大蛇行の原因である大きな冷水塊が居座っている(気象庁HPより転載)