マダコ01

今年も東京湾のマダコが内房富津より始まった。 解禁となった4月24日、川崎丸は例年どおり第二海堡から南沖の水深10メートル前後を探釣、トップ4杯、船中46杯と順調に釣れ、翌25日も同様のペースで最大4.1キロを筆頭にほとんどが1キロ以上。「育ちがいいのか、小ダコがまだテンヤに掛からない大きさなのか、昨年も出足は良型主体で、6月ごろから小型も釣れ盛りました」と石井広一船長。5月一杯までは良型中心、その後は小型を交えて数釣りという昨年のパターンになる可能性も高い。 あらゆる点で直感的かつシンプルな手釣りで楽しむ富津のマダコ。手軽に、楽しく、飛びきりおいしいマダコを釣りに行こう!

 

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女性がマダコに好かれた理由と宙からの誘い下げ

マダコ02

近い将来、クルマが完全自動運転化され、ステアリングを回す感触が日本人の手から失われても、手釣りでマダコを海底から引き剥はがす感触は受け継がれるだろう。 江戸、明治、大正、昭和、平成、令和。長く続く釣法には必ず「理ことわり」がある。 それはたとえば大ダコに負けない強度、根掛かったときの回収率、小ダコがハリの間を抜ける構造など。 歳月を費やすことで選別し尽くされ得られた合理性は、たくさん釣れる、とか、面白い、とか、かっこいい、といった表面的なものではない。 それはもっと、人と、自然に思慮深いもの。そう、今風にいえば、サスティナブル=持続可能性だ。私はそれを敬愛の念を込めて「味わい深さ」と呼びたい。

今日のマダコは公平だ

「そんなこと言ったって、私マジで苦手なんすよ、タコ!」 4月23日、解禁日恒例行事として私に付き合わされている三石忍が、朝日を反射して白く輝く第二海堡の壁を背に半ギレ(冗談)して言う。 たしかにそうだ。腕の差が出る釣りを得意とする彼女にしてみれば、マダコの手釣りは真逆。過去の釣果は決して悪くないのだけれど、苦手意識があるのも無理はない。 その横では、身体を「く」の字に折り曲げて小づく相あい蘇そさん。あまりに前のめりで、落ちないか心配だ。「昨年の12月の最終日に来て以来、今日が待ち遠しかったんです」 上気した顔は、まるで子供が待ちに待った遊園地に来たかのようだ。

 タコ釣りが苦手な女。 タコ釣りに惚れた男。 マダコ釣りというものは往々にして、どちらかに釣れない悪戯をするものだが、解禁祝いか、第二海堡ですぐに2人とも小ダコを手にした。 釣れたときの安堵感とも言うべきうれしさは、三石も、相蘇さんも同じ。気持ちが軽くなって三石は脱力し、相蘇さんはさらに前のめりになるのだった。「一昨年、昨年よりは釣れましたけど、第二海堡は大ダコが出なくなりましたね」 長年マダコを狙い続けている石井広一船長の言うとおり、最近、春先の第二海堡はパッとしない。それでも1時間でここ数年では好成績となる11杯を釣り、南沖へ走った。

 ダーッと南下して向かった富津南沖では水深10メートル台を流す。 すると、ここからが本番と言わんばかりに胴の間、トモ、ミヨシで1人、また1人とマダコを釣り上げ、2杯目、中には3杯目を手にする人も見え始めた。 上潮が速く、底はゆっくり。こんなときはテンヤを投げると余分に糸が出てオマツリの元。船長は船下に落とすようアナウンスする。 トローッと船が流れつつ1時間、海堡と同じく船中11杯が上がり、型は1キロ近い良型が中心になってきた。 ここから船長はピンポイントでこまめにポイントを探っていく。 根のきつい場所では根掛かり注意のアナウンスを入れ、そうでないときには糸を出して小づいて大丈夫と伝える。 いったいどれほどのポイントがあるのか想像も付かないが、空振りはなく、どの場所でもマダコは乗ってくる。

女性がよく釣れるワケ?

時間の経過とともに分かってきたことがある。 それは「今日のマダコは女性が好き」ということ。 三石忍をはじめ、当日は4名の女性が手釣り糸を持って小づいていたのだが、全員、無事にマダコを釣り上げている。それもミヨシの三石以外は胴の間で、3杯、2杯、2杯だ。 この点について私は迷信めいた喜びを感じていたのだが、三石は違った。いわく、 今日は潮が効いていないせいかマダコの抱きが浅い。ゆえに、小づきや合わせが急だと掛からない気がする。その点、今日乗っている女性は全員小づきと合わせがしなやか。員小づきと合わせがしなやか。このことと釣果は無関係ではない、ような気がする。

 古い表現だが、思わずヒザをたたいてしまう話だ。なぜなら、この日釣った人全員を撮影していて、タモの中でマダコがテンヤから外れることが非常に多く、今日は抱きが浅いなあと思っていたのだ。 恐るべし。富津のタコ女。だが、彼女の慧けい眼がんはそれだけではなかった。 乗りが遠のいたと感じるとビニール片を切りだし、テンヤの上のスナップに結んだ。いわゆる飾り、あるいはアピールアイテムのたぐいで、手釣りのマダコ釣りではこれぐらいしか工夫の余地がない。 というわけで、三石はビニール片を付けて小づいていたのだが、何も変わらない。 そりゃそうだ、先糸に縛ってもズレるのでスナップに結んでみたけど、目立たないもんでみたけど、目立たないもんね……。 彼女はそう思った。そこで一計を案じた。「テンヤを底から1メートルぐらい持ち上げて、ユラユラさせたんです。え? 時間? 30秒、いや、1分ぐらい宙でユラユラさせて、目立たせてから、ゆーっくり下ろしていくと、底に着いたときに、ムニュッて乗るんすよ」 そう語る三石忍の網袋には、あれま4杯のマダコがくんずほぐれつしている。「その方法で何杯釣れたの?」「4杯中3杯ですよ」 なんと後半に釣った3杯すべてが「宙からの誘い下げ」での「着乗り」だと言う。

 ちなみに三石によれば、この釣り方ではほとんど底で小づかず、宙でアピールしているそうだ。 ちょっと待て、それ、すごくないか?「そうすか? 根周りだと、やるじゃないですか」 まあ、そうだけどさ、平場で意識して宙で誘うって、普通、やらないよ。「タコに目立たせるにはいいんじゃないかって思っただけですよ。ないかって思っただけですよ。でも、やっぱりタコは苦手!」 あっけらかんと笑う三石忍。 その横では釣り始めと変わらぬ情熱で、マダコに惚れた男・相蘇さんが一心に小づき続けている。 こうして令和3年のマダコ解禁日は、沖揚がりの12時を迎えたのであった。


川崎丸

マダコ03

10439・87・2902(詳細は巻末の情報欄参照)▼料金=マダコ乗合一人1万円(氷付き。女性中学生以下7000 円)▼備考=予約乗合。宿にて席札を取り受付。 ほかマゴチ乗合へも

 

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