釣りばかレーサー・高木真一インタビュー『つり情報』連載・沖釣りあっちこっちRound20より

 

 

★2021シーズンも鈴木亜久里監督率いるARTA(オートバックスレーシングチーム・アグリ)よりSUPER GT・GT300クラスへの参戦が決定した高木真一さん。

 

★昨年はスーパー耐久参戦中に思わぬ事故に見舞われたものの同シリーズの年間チャンピオンを獲得、ケガからも順調に回復し、3度目のSUPER GTチャンピオンと最多勝記録更新に向けてリハビリとトレーニング、そして大好きな釣りの日々が始まろうとしている。

 

★インタビューは2020年11月29日、富士スピードウエイにて、聞き手&撮影は沖藤編集長。

 

 

 2020年11月1日、岡山国際サーキットにて開催されたスーパー耐久のレース中、生きているのが幸運と言われる大事故に遭い、腰椎圧迫骨折、右手首骨折の重傷を負った高木真一さん。

 

 手術は成功し驚異的な速度で回復、11月27日より富士スピードウエイで開催されたSUPER GT最終戦には姿を見せ、関係者を驚かせた。

 

 パドックをスタスタと軽快に歩き回っては所属するARTA、自身が監督を務めるBJレーシングで仕事をこなし、ひっきりなしに関係者とあいさつをかわす高木さん。

 

 その合間を縫ってメディアのインタビューに応じていたのだが、当然、内容はレースのこと。その中で本誌は、レーシングチームのピットで「釣りばかインタビュー」を敢行した。

 

年末のカワハギ釣りに
行けるかな、と(笑)

 

【これだけの大怪我をして、想像を絶するぐらい痛い思いをしているときも釣りに行きたくなりますか?】

 

高木「なりますよ! 岡山のレースのあと、三重でテラアジ狙いのアジングと、ティップランと、カワハギに行く予定だったんです。行きたい気持ちでいっぱいでした」

 

【……それどころじゃないかと思いましたよ。人生初の骨折が腰椎と右腕って、まさにケガの一括払い。普通の人は、運がよくてもまだベッドの上ですよ】

 

高木「たしかに大変でした。でも、日々よくなっているんです。昨日より、今日のほうがよくなっていると実感できるんです」

 

【でも、船はまだ無理ですよね?】

 

高木「はい。でも、12月下旬の検診で、いいって言われたら、年末の(村越正海さんが毎年主催している)カワハギ釣り会に出られるかな……って」

 

【どんだけ好きなんですか!? そんな高木さんに意地悪な質問ですけど、釣りに行けない日々、何釣りに行きたくなる?】

 

高木「アオリ、タチウオ、アカムツ、カワハギ、あと、正月前にマダコです(即答)」

 

【……つまり、全部ですね】

 

2019年、高木選手と福住仁嶺選手のドライブでGT300クラスチャンピオンを獲得したNSX-GT3。レースに向けて作業中

 

魚釣りとレースって
似てると思うんです。

 

【あらためて聞きたいのですが、釣りとレースに共通点はあるんですか?】

 

高木「ありますよ。たとえばレース用のクルマって、スプリング、ダンパー、車高、タイヤ、空力など、コンディションに応じて色いろと調整するんです」

 

【いわゆるセッティング、ということですね】

 

高木「はい。でも、それってほとんどの場合『自然』のコンディンションに合わせることなんです。季節、雨や晴れなどの天候、その時どきの気温で、クルマのセッティングも、動かし方(ドライビング)も、色いろと変えて、正解を見つけていかないと結果に結び付かないんです」

 

【釣りで、一つの魚種でも場所、季節、水温の変化によって、ハリ、オモリ、釣り方、細かく言えば、竿まで変わってくるのと似ている?】

 

高木「そうです。レースをやらない人には、同じ所を同じように回っているように見えるかもしれませんが、その間に天候や気温、路面温度が変われば、タイヤや作戦を変えていかないと、よい結果を出せないんです」

 

【刻一刻と変わるコンディションに合わせていけるかどうか、が試されるわけですね】

 

高木「はい。レースでは路面温度が5度変わると、タイヤが変わって、車高などのセッティングも変わります」

 

【当然、ドライビングも変えているわけですもんね】

 

高木「はたから見ていて分からないけど、実は色いろやっている、という点では、釣りで天候や気温、潮色で仕掛けやルアー、タックル、釣り方を変えていくのも同じです」

 

【高木さんは本当に船の上で、色いろ試しますよね。その気質というか、性格が、レーサーなのかなあって思うことが多々あります】

 

高木「でも、釣りではうまくいかないことのほうが多いんですけどね(笑)」

 

【たしかに!変なことしますしね】

 

[後編に続く]

2020年SUPER GT最終戦・富士に駆けつけた高木真一さん

レースでは常に状況の変化に対応したセッティング変更が行われる

毎戦サーキットに掲げられる謎の大漁旗、ちがった、高木真一さんの応援旗

2020年SUPERGT最終戦にて。左より大湯都史樹選手、土屋圭一エグゼクティブ・アドバイザー、高木真一さん、負傷した高木さんの代役として活躍した松下信治選手

2019年。2度目のチャンピオン獲得記念釣行はティップランのアオリイカ釣り

「高木さんのだけちっちゃいね」船長に言われるとおり、高木さんにだけ小さなタコが釣れてくる。たぶん、色いろやりすぎて大物には警戒されていた模様

いわゆる「ノドグロ」。アカムツ釣りはぶっつけ本番が通用しない釣り。きちんとセッティングを見直して、2度目の釣行で結果が出た、2020年のなかで会心の釣り

たかぎしんいち◎1970年山口県柳井市生まれ。92年よりレース活動を開始、フォーミュラ、ツーリングカーで幅広く活躍、数多くの優勝を飾り、2002年、2019年GT300クラスチャンピオン、2020年スーパー耐久チャンピオン獲得。現在SUPER GT歴代最多勝を競っている(21勝)。沖釣りを中心にエサ、ルアー問わず淡水まで幅広く楽しみ、時折海外へ釣り旅行するほどの釣り好き。奥さんは釣りタレント、レースクイーンとして活躍した吉川ひとみさん