◎沖藤武彦

 

 

いやはや、今や毎年7月は豪雨災害に気を付けなくてはいけない月になりました。皆さんの地域で「警戒レベル」が2になったら、ハザードマップなどを見て、避難行動を確認してくださいね。

 

 

てかさ、そもそも警戒レベルとか、コロコロ変わってよく分からないんだよねぇ……というあなた! まあ、分かりにくいというか、ホントのトコロは忘れちゃうのですが、現在、アナウンスされる警戒レベルはかなりシンプルになっております。

気象庁ホームページより

 

 

以前も紹介しましたが、避難所などを始め、ハザードマップなど各種情報はこちらがおすすめ。

 

重ねるハザードマップは こちらから

 

 

皆さん「うちは大丈夫」と思わず、柔軟に警戒、対応してくださいね!

 

 

 

海の魚は豪雨で釣れなくなる? 

 

 

 

さて。これだけ雨が降るとさすがに沖釣りでもその影響が心配になるってもんです。

 

 

そこで、本誌でもたびたびお世話になっているご意見番、魚類学者・工藤孝浩先生に「豪雨が降ったら沖釣りにどんな影響が出るの?」を聞いてみることにしました。

 

 

 

市民参加でのアマモ場再生やワカメ育成など、東京湾の環境改善に取り組んできた研究者・工藤孝浩さんは大の釣り好き。

 

「はい、工藤です」

 

☎︎ もしもし工藤さん、ご無沙汰しております。いきなりで恐縮なのですが、今日みたいな豪雨って、海の魚にどのような影響を及ぼすのでしょう?

 

 

「おお、雨がかなり降っていますものね……。そうですね、簡単に言いますと、降雨により沿岸や河口に塩分の薄い層ができるので、低塩分を嫌う生き物には影響が出ます」

 

 

☎︎ それは海の魚、イカ、タコすべてですか?

 

 

「はい。集中豪雨のような大雨だと、泳げる生き物は塩分の薄い水を避けて、移動します」

 

 

☎︎ 釣り人としてはタコ、マダコが気になるのですが、タコってあまり動きませんよね? 結構、真水を嫌うって言われますけど。 

 

 

「タコや貝など底に暮らす生き物はあまり動きませんが、塩分の薄い水は比重が軽いので、海底にはそれほど大きな影響は及ぼさないといえます」

 

 

☎︎ 淡水は軽く、海水は重いというやつですね。

 

 

「ええ。雨水を嫌って移動するとしたら、アジや、外洋から入ってきた、回遊性の生き物でしょう。マダコなど沿岸の海底に定着して生活する生き物は、そもそも、塩分の変化に対応する能力もあります」

 

 

☎︎ たしかに、そうでなくては生息できませんもんね。以前も、マダコはふ化前後でなければ、雨水の影響はそれほど大きく受けないとおっしゃってましたよね。

 

 

「ええ。ですが……ちょっと心配です」

 

 

☎︎ と、おっしゃいますと?

 

 

「普通の降雨、大雨であれば、マダコや貝類たちは海底で耐え、やりすごすことができます。ところが、昨今の激しい豪雨に対して対応できるかと問われると、安心できない、と言わざるを得ません」

 

 

☎︎ 異常なほど降りますもんね。

 

 

「はい。雨水の急激な流入もそうですが、強風によるシケなど、複数の要因が重なると、甚大な影響を及ぼしかねません。私の記憶では、1991年の東京湾マダコ大発生は、秋の大型台風の襲来を機にパタリと終息、驚くと同時に、その原因を色いろと考えさせられました」

 

 

☎︎ 最近よく耳にする「過去に例がない」ほどの集中豪雨であれば、海の生き物に大きな影響が出るおそれもある、と

 

 

「人間と同じく、海の生き物も対応しきれないのではないでしょうか」

 

 

☎︎ 今年はとくに小さなタコが多く、船宿や釣り人が自主的にリリースしているだけに、生き残ってほしいものです。

 

 

「おお、小型のリリースとは、素晴らしいことですね! そうなんです、小さな個体ほど、影響を受けると思われますので心配です」

 

 

☎︎ 来週、行くんですよね。タコ釣り。

 

 

「これ以上豪雨が来ないことを祈りましょう」

 

 

 学術研究のほか水中観察、漁業、遊漁船での釣りなど、様ざまなフィールドでの体験を通して研究する工藤孝浩さんは、さかなクンが師と仰ぐ研究者

 

 

 

 

大雨の後に「濁ると釣れない」のは本当?

 

☎︎ ところで工藤さん、東京湾や沿岸域では、大雨などで濁りが入ると釣れなくなる、と言われる魚がいくつもいますが、その原因って、何が考えられるのですか?

 

 

「一番は視力への影響でしょう。表層が濁り、暗くなったり、汚れが流れてくれば、エサを見つけにくくなります」

 

 

☎︎ カワハギ、フグ、ヒラメ、マゴチあたり、そんなイメージがありますね。

 

 

「とはいえ、魚は視力だけに頼ってエサを探しているわけではなく、嗅覚も重要ですので、エサの臭いを察知すれば、捕食すると思います」

 

 

☎︎ 臭いというと、コマセ釣りのアジやイサキを連想します。

 

 

「ええ、アジなどはとくに、魚群さえ見つかればコマセで寄せて釣ることができるのではないでしょうか。あと、最近の研究では、クロダイが視覚以上に、嗅覚が非常に発達していることが分かっています」

 

 

☎︎ 東京湾では最近、クロダイやキビレのルアーが盛り上がっていますが、濁ったら臭い作戦も効果的かもしれませんね。

 

 

「そう言った意味では、ルアーや生きエサの釣りは濁りの影響を受けやすいと言えるかもしれません」

 

 

☎︎ イカやタコはどうですか?

 

 

「おお、そうでした。ご想像のとおり、イカは視力に大きく依存してエサを探しますから、濁りの影響を受けるはずですが、視力に優れている生き物ですので、釣れる、釣れないというより、スッテや餌木の色などに影響が出るのではないでしょうか」

 

 

☎︎ タコなんか、蛍光&臭いが効きそうですもんね。そういえば、東京湾などで大雨や台風の後、海面が泥濁りになると、タチウオが浅場にわんさか押し寄せてくることを何回も経験しています。

 

 

「タチウオは明るさによって浅深移動しながら24時間を過ごしています。比較的エサが豊富な浅場が、濁りで暗くなっていたら、日中でも上がってきます」

 

 

☎︎ エサが多く個体数が増えたら、そのまま居座ることも考えられますか? たとえば、昨年よく釣れた走水沖や猿島沖などの浅場に、新たな群れが供給されてアタリが増える、とか。

 

 

「過去の遊漁船の釣れ具合を見ていると、濁りなどがそのきっかけになる可能性はあるでしょうね」

 

 

☎︎ いやあ、工藤さんに教えていただいていると、大雨や濁りも、釣りのポジティブ面を考えて楽しくなってきます。

 

 

「大雨のあとだから釣れない、ということはなく、いつもと違う一工夫が必要になる、という心構えで、釣りを楽しめばよいのではないでしょうか」

 

 

☎︎ では最後に、海にとって「雨」はどんなモノなのでしょう。

 

 

「はい。間違いなく必要なものです。海は独立しているのではなく、陸とつながっています。栄養の供給など、陸との物質循環なくして生態系は成り立ちません」

 

「しかし、極端な豪雨による急激な塩分の低下など、度を超した降雨は特異的な環境変動を引き起こし、生き物たちにダメージを与えてしまいます」

 

 

☎︎ それって人間も同じですよね。昔から水害はあったものの対応してきて今があるけど、最近は対応できない規模、頻度になっています。

 

 

「そのとおりです。海の環境も、釣りも、人間社会も、いわば地球環境の中で、すべてつながっています。日常と環境を大切に、油断せず、釣りを楽しんでいただければと思います」

 

 

☎︎ 今日はお忙しいところ、ありがとうございいました。

 

 

「いえいえ。本当に豪雨と台風は心配です。ところで沖藤さん、今年のカツオ・キハダはいつ行かれますか?」

 

 

☎︎ あ、8月頭に仕立船をおさえてありますから、一緒にいかがですか?

 

 

「おおおお、それは僥倖、で、いつですか」

 

 

※以下、釣り談義。

 

みなさん、豪雨、新型コロナといった天災に気をつけつつ、よい週末をお過ごしください。

 

 

それでは、また来週!