◉沖藤武彦
今週ロンドンで開催されたCOP26で、アメリカのバイデンさんが欠席した中国とロシアを批判してましたけど、まあ、トランプ政権時代にさんざん環境関係の国際条約から脱退したり途上国援助を切ったり好き勝手やっていたワケですから、どっちもどっちと言われても仕方ありません。
とまあ、地球規模の喫緊の課題ですら水かけ論になっちゃっている昨今、わが国ニッポンの環境といえば軽石パニック。
なんでも小笠原諸島の海底火山、福徳岡ノ場が100年に一度の規模のマグマを噴出したそうで、8月中旬の噴火から2カ月かけて沖縄まで1200キロ流れてきたとか。
スーパーコンピューターによるシミュレーションでは、この軽石は関東沿岸に流れてくる可能性も高いとか。てか、このニュースを見た時「コロナウイルスの飛散モデル以外にもスパコン使うのね」と思っちゃいましたけど。てへ。
で。軽石が大量に流れ着いている沖縄や鹿児島南部では港の機能が停止してしまい漁業や遊漁に影響が出ているわけですが、まあ、たしかに困ったモンですけど、そんなに悪者なのかな? って思いませんか?
なんだか、テレビでは軽石=悪って決めつけられてる感じがあるけど、ゴミではないわけだし。
で、11月下旬には関東地方にも漂着するかもしれない、なんて言われているこの軽石、果たして環境にどんな影響があるのか気になるところ。
そこで、つり情報と当編集日誌の御意見番・生物学者の工藤孝浩さんに聞いてみましたよ。素朴なギモンを。
Q 軽石漂着でどんな影響が出ると思われますか?
工藤「沖縄方面の漁業や遊漁、観光に携わる方々にはお気の毒ですが、一連の報道で、一番驚いたのは、軽石とともに多くのアミモンガラの幼魚が沖縄の漁港に現れたことが全国版のニュースになったことです。あんなマイナー魚が全国報道されたのは初めてなのではないでしょうか?」
いきなりアミモンガラにフォーカスする工藤さん。
アミモンガラが軽石と一緒に大挙してやってきたことは、そんなにスゴイことなんですか?
工藤 「はい。アミモンガラは流れ藻につく幼魚のレギュラーメンバーなのですが、他の多くの流れ藻につく幼魚が海藻片や枯葉に擬態しているなか、ズングリむっくりしたアミモンガラは軽石擬態をしていると考えらていました。それが本当に、軽石について沿岸に現れたことに心底驚き、感動すら覚えました。全く個人的な感想で申し訳ありません」
▲アミモンガラ 撮影:工藤孝浩
……軽石擬態って、マジですか⁉︎ それだけ軽石は海中の環境の一部なんですね。
「はい。大量の軽石漂着は、人間生活には甚大な影響を与える負のイベントですが、海洋環境的にはさほど深刻な問題だとは思われません」
でも、日光を遮ってサンゴに光が届かないとか、影響を心配する報道もありますよね?
「確かに軽石が海面に溜まれば、その下の海底には光が届かず、海藻やサンゴに悪影響を与えますが、それは人間が軽石を溜め込む防波堤などの構造物を造ったからで、人災と言えます」
たしかに、大きな環境保全という視点でみれば、人災という見方もできますね。
その視点、どこも報じていないように思います。
「軽石は程なく海底に沈み、底質の一部となります。自然の中から生まれたものが自然の構成物になるのですから、一時的な自然の撹乱が起きただけで、何の問題もありません。むしろ、人間が海や川に構造物を造ることの方がよほど問題だと思います」
軽石を悪者にするのは筋違い、というわけですね。なんだか、深い話のような気がするけど、ごくシンプルな原理ですよね。
「話はアミモンガラに戻りますが、軽石擬態した魚が軽石とともに大海を旅する訳ですから、減耗は少ないはず。だから、沖縄にあれほど大量に現れたのだと思われます」
今年は多くの流れ藻とカワハギ類の稚魚が相模湾で確認されていて、工藤さんはカワハギ好調を予言していますしね。
「はい。軽石の大量漂流は、アミモンガラのような思いもよらない生物の分布拡大と勢力拡大に寄与している可能性があります」
海の環境って広大でダイナミックですねぇ。大量の軽石はたしかに人間にとっては困りものかもしれないけど、地球にとっては当たり前で、依存している生き物がいるというのも驚きでした。
「ちなみに、他の軽石擬態の例としては、ウミガメ類の子亀が知られています」
ウミガメもですか!やっぱり自然はスケールが違いますね。
「長い生物進化の歴史の中で、軽石擬態の生物が生まれている。このことは軽石への擬態が生物の生存戦略上有利に働く証拠です。軽石漂流はそれほどポピュラーな現象なのです」
軽石、すごいな!