◎ども。分かっちゃいるけど地方空港に行くと名物アピールを撮ってしまいSNSにあげようと思っては思いとどまり結局スマホの中に溜まっていく悪循環が終わらない沖藤です。やれやれ。
こちらはどこか分かりますか?
はい! 恐竜というと福井、石川県。小松空港です。
で、こちらは寿司が回ってくる空港
海産物・寿司が名物といえば富山湾。最近は新幹線に押されていますが、富山空港です。
で、富山に何しに行ったのかと言えば
この方です。
ノドグロさま。アカムツ釣りです。
富山湾といえば以前からアカムツが安定して釣れる場所として知られているのですが、最近、とくにここ数年は好調です。
まあ、関東周辺にも犬吠埼やカンネコ、最近では福島の小名浜沖、太平洋岸といえば遠州灘の福田などアカムツの名所がありますが、富山湾のアカムツ釣りが他と違うところは
国内で唯一アカムツが放流されている海
であること。
国内で唯一ということは
世界で唯一
ですよね。裏は取っていませんけど。
この富山湾のアカムツ放流については『隔週刊つり情報10月1日号』連載、富所潤のFishin'graphにて紹介しております。
で、今回は誌面で紹介仕切れなかったアカムツの放流について、ちょっと深堀りしてみたいと思います。
まず、アカムツの試験放流については、年度ごとの放流尾数など、富山県ホームページでご覧になれます。
↓こちらからジャンプできます
https://www.pref.toyama.jp/166191/20211220akamutsuhouryuu.html
ざっくり言うと、平成26年度からの8年間で6回にわたり
計18万4000尾ほどのアカムツが放流されています。
神奈川県のマダイの種苗(稚魚)放流が最も多い年で1年間100万尾を超えていたことに比べると数字としては少ないのですが、そもそも、神奈川県のマダイ放流も研究当初は数千尾からのスタート。
ハナシが神奈川県のマダイ放流に寄り道しますが、神奈川県ではマダイの種苗放流が増えるとともに漁獲量が復活、1991年から2008年の間に捕獲されたマダイのうち、放流魚の占める割合は最低年で重量38%、尾数で25%。最高年で重量70%、尾数78%にのぼりました。
平均すると、重量で41%、尾数で48%が放流魚でした。
そのなかで、2006年のマダイ捕獲量136tのうち「釣獲量」は75パーセントに達しています(釣りすごいわ)。
※マダイ栽培漁業の効果と課題ー今井利為より引用
http://www.kanagawa-sfa.or.jp/aquanet201110.pdf
ちなみに、釣りによる
放流マダイの回収率は3.5~12.6%。
全体に比べると少なく見えますが、職漁と違い釣り船の釣果すべてを調査することが難しいため、実際にはもっと多いと思われます。
つまり、神奈川県(東京湾側含む)のマダイ釣りを種苗放流が下支えしていることは間違いない。と言って過言ではないわけです。
で、話は富山湾に戻ります。
アカムツの試験放流が始まり、数千から数万尾へ徐々に放流量を伸ばしている富山県において、将来、アカムツの魚影がさらに濃くなり、捕獲されるアカムツの半分近くが放流魚、となる可能性もあるわけです。
神奈川県がマダイの種苗生産技術の向上によって放流量を伸ばし、漁獲量が回復したことに鑑みれば、あながち的外れな妄想ではないでしょう。
ちなみに「放流魚」というと、イケスや管理釣り場で見かける「養殖魚」を想像する方もいるかもしれませんが、ここで言う
放流魚=種苗=稚魚
と
養殖魚=成魚=蓄養など
は別物です。
富山県が生産に成功したアカムツの種苗は、いわゆる赤ちゃん。
卵から赤ちゃんまで育てて、海に放します。
ですから、最初の半年ほど人間の手で育てた後は、
自然の海で育ちます。
コンディションのよい親魚を地元の海で捕獲、研究所で人口孵化させ、卵から稚魚へ育てるべく自然の海の環境を再現した水槽で飼育し、成長に合わせてエサとなるプランクトン類や水槽を変え、沿岸のイケスなどで全長5センチほどまで育てたら、親魚を捕獲したのと同じ海域に放します。
これはマダイもヒラメもカレイもカワハギも同じ。
海の放流魚=天然育ちであり
決して成魚放流ではありません。
またまた話は寄り道しますが、以前、神奈川県城ヶ島の栽培漁業センターにてマダイの種苗生産を数ヶ月にわたって取材したことがあるのですが、技術的に難しいとおっしゃっていたのが
孵化直後のエサでした。
これは魚によって異なり、海の環境、大袈裟にいえば食物連鎖の初期段階を再現、維持することにほかなりません。
たしか(間違っていたらごめんなさい)マダイの孵化直後にカギになるのがツボワムシの仲間で、寿命が非常に短いプランクトン。このエサを発生させる水環境を作り出すこと一つとっても高度な知識と豊富な経験、そして24時間体制で管理する根気と努力と細やかさが求められます。
私が取材したマダイの種苗生産担当のT技師はほぼ無休で管理しており、経験と勘が大切なため、代わりが効かない現場であることを実感しました。
ですから、マダイよりも深い海域にすみ、孵化直後の生態に謎が多いはずのアカムツで種苗生産が成功、数年間にわたり放流しているという事実は、
驚嘆に値するんです。
はっきり言って
世界に誇れる技術です!
さて。
釣りをしていて、大きなアカムツが釣れたり、小さなアカムツが釣れると
アカムツって何年で大きくなるの?
と思うはず。これについて新潟県沿岸のデータを参考にすると
1歳=~12センチ
2歳=12~18センチ
3歳=14~28センチ
4歳=16~30センチ
5歳=22~34センチ
6歳=24~34センチ
7歳(+それ以上)=26~38センチ以上
※数字は全長。ちなみに、34センチ以上のアカムツはすべてメス。オスは7歳でも34センチ以下。
※新潟から富山県沖のアカムツの資源・生態調査 (国研)水産研究・教育機構 水産資源研究所水産資源研究センター 八木 佑太 より引用
「ニシキゴイ」なんて呼ばれる40センチ超級は7歳以上、ということになります(と言いつつ、片貝沖のジャンボもそうなのかなあ……どうも同じとは思えない)。
ちなみに、同調査によると15センチ以下は雌雄不明の個体が多く、15~25センチで雌雄の割合が明確になった、とあるので、産卵に参加するのは2~3歳以降、20センチ以上と見るのが妥当。これはマダイとほぼ同じか、やや遅いぐらいでしょう。
リリースできるのであれば、小型は逃したいものです。
そんなこと言っても、種苗放流されたアカムツの稚魚も、小型も、底引き網で獲られちゃうんじゃないの?
と、思う人もいるかもしれないし、実際にそうした個体もいるでしょう。
が、新潟出身、学生時代より北陸に住んでいたイカ先生・富所潤さんは、定置網が密集している富山湾奥では、アカムツが底引き網で獲られることが少ないから生き残り率が高いのではないか、と言っておりました。
実は私も、富山湾でアカムツ釣りを取材してみて、その見方は一理あると思いました。
で、調べてみると、やはりそう。
釣り人の実感として、富山はアカムツの魚影が濃いはずなのに、漁獲量自体はお隣の新潟県のほうがはるかに多いのです。
その漁獲方法は新潟が底引き網、富山県は刺し網が主体。
結果として、漁獲されるアカムツの平均全長は富山県のほうが大型(25~30センチ)。
つまり、富山湾は底引き網で(ほとんど)捕らない分、小型のアカムツの生き残り率が高く、種苗放流されたアカムツが1年、2年生き延びて、再生産(産卵)する可能性も高い、と推察できるわけです。
もちろんアカムツは地域による違い、また同じ地域でも岩礁と砂地で大きさや脂肪含有量に違いがあったり(たしか島根か山口県の研究資料で読みました)と、ローカルな側面を持っています。
しかし同時に、アカムツは令和元年度より資源評価対象種となったことを契機に、各地での漁獲情報が蓄積されつつあります。
つまり、今後、アカムツはさらに研究と管理が進む魚のひとつといえます。
関東地方・犬吠埼沖でのバッグリミットを始め、そこには遊漁も無縁ではありません。
今回の富山湾取材では、富山湾のアカムツ釣りに遊漁の新たな可能性、あるいは将来像を見ることができました。
10年後、いや、5年後、各地のアカムツ釣りはどう変わっていくのか、変わらないのか。
ぜひ、確かめに行きたいものです。
と、マジメに締めたところで、また来週。
あー、富山といえば寿司もいいけど、焼肉なんだよなあ……(不完全燃焼)。