遊漁船関係者を〝含まない〟委員会による提言を元に、遊漁船の安全装備(3項目、1隻予算140万円以上)の義務化が12月末に公布、令和7年4月1日より施行されようとしています。

 

◉隔週刊つり情報発行人/沖藤武彦

 

 大前提として、遊漁船において安全は最優先されるべきであることは疑う余地がありません。遊漁船業者は常に事故ゼロ、死亡者ゼロを目指しています。

 

 ライフジャケットに関しては義務化以前に自主的に導入している船宿が数多くあり、同じく遠征船には救命いかだや衛星無線機、非常用自動位置発信装置を備えている船もあります。

 

 より安全に、安心を目指し、投資することに反対する人はいないでしょう。

 

 とはいえ、今回の「船舶安全法施行規則等の一部改正」における遊漁船の安全装備義務化は、遊漁船の特質、業務の多様性、事業規模など、現状に即した内容とは言い難いのではないでしょうか。

 

 簡潔に言えば、太平洋側は千葉・外房から北、日本海側は玄海灘から北の海域において、港から5海里以上(水温10度未満になる海域はほぼすべての海域)を航行する遊漁船は、推定(最低でも1隻あたり)計140万円以上のコストがかかる

 

「改良型救命いかだ」

 

「非常用位置発信装置」

 

「法定無線機」

 

の設置が義務付けられます。

 

 それ以外の海域を航行する遊漁船でも平水をのぞく全ての海域で最低でも合計30万円の

 

「非常用位置発信装置」

 

「法定無線機」

 

の設置が義務化されます。

 

 それはカズワン事故に鑑みた観光船向けの話ではないのか?

 

 そう思う人も多いと思います。私もそうでした。てっきり、観光船などの話かと思いました。

 

 ところが、今年10月下旬、遊漁船の船長たちの元に突然〝「小型旅客船等安全対策事業費補助事業」のご案内〟という用紙が送り付けられ、前記の「船舶安全法施行規則等の一部改正」が今年12月に公布されることを知らない(知らされていない)船長たちは事態が把握できず、確認を急ぎます。

 

 中には、突然、補助金についての電話がかかってきて、詐欺ではないかと疑う声も出はじめます。

 

 問い合わせを受けた日本釣りジャーナリスト協議会と日本釣振興会は、国土交通省と、遊漁船を管轄する水産庁に説明を求め、11月2日(木曜日)、両省庁より担当者4名参加のもとフィッシング会館にて説明会を開催しました。

 

 その説明を元に「船舶安全法施行規則等の一部改正」については下に記しましたが、驚くべきは、改正・義務化の根拠となる知床遊覧船事故対策検討委員会の委員に、

 

遊漁船関係者が一人もいなかったこと。

 

 つまり、全国におよそ1万3000軒ある遊漁船業者のだれ一人参加していない委員会の提言をもとに、国交省は今回の改正を遊漁船に適応しようとしています。

 

 同時に、このように重要な、それこそ遊漁船にとって経営、規模によっては存亡にすら関わる重大な改正を、管轄省庁である水産庁が、問い合わせを受けるまで公表しなかったことも驚きです。

 

 ちなみに今年5月、遊漁船に関わるメディア4社が水産庁に呼ばれ、遊漁の現状について質問されたそうですが、その席では「船舶安全法施行規則等の一部改正」、つまり救命いかだ等が義務化される話は出なかったそうです。

 

 フグの食中毒事例はまめにメールをくれるのに、大切なことを黙っているとは実に親切。まあ、質問されなかったから答えなかったのでしょうか。さぞ、メディアの代表者が間抜けに見えたことでしょう。

 

 つまり、これだけ重大な決定の内容が国交省ホームページに記載されたのみで(8月に〝オンラインで〟国交省は説明したそうです)、遊漁船業者やメディアにアナウンスされることなく、しずしずと、粛々と、公布1月前を迎えていたのです。

 

 説明会の席で今後、審議会を開くことはあるのかとの問いに国交省担当者は、

 

「開けないわけではない」と回答。同時に、

 

「開く義務はない」とも付け加えました。

 

では、業者や国民から声が寄せられたら対応するのか、との問いには、

 

「お答えできません(ノーコメントの意)」

 

 このようなとき、我われ国民が規則などに意見を述べる場として

 

「パブリックコメント」

 

がありますが、そのパブリックコメントは説明会が開かれた前日の11月1日から開設されています。

 

 あくまで個人的な感想としますが、すべてが用意周到、整ったところで遊漁船業者に補助金の紙を送り付け、文句言われるのを覚悟で公布までの残り1カ月を突っ切ろうとしているようにしか見えません。

 

 とはいえ、現状では皆さんの声を届けるには、パブリックコメントしかありません。

 

 

▪️パブリックコメントはこちらから。

 

↓お間違えのないように! 

「船舶安全法施行規則等の一部を改正する省令案に関する意見募集について」

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1014_CLS&Type=0&Bunya=0000000040#

 

 

 今回の事例は、安全対策の内容よりも、検討する場に遊漁船関係者が一人もいなかった点、遊漁船の実情に即しているとは言い難い点、そして管轄する水産庁が何の情報発信も行わなかった点について、大いに問題があると思います。

 

 ぜひ、全国1万3000軒の遊漁船業者の声を無視せず、遊漁船業者の代表を含めた上での再検討を求めたいと思います。

 

 その結果であれば、遊漁船業者もコストがかかることを承諾するでしょうし、よりよく安全な遊漁が実現すると考えます。

 

 ちなみに、先の「小型旅客船等安全対策事業費補助事業」は、国交省のホームページを見ると、遊漁船は「救命いかだ」のみ対象で、「非常用位置発信装置」「法定無線機」は除外のようです。

 

 そもそも、補助金(補正予算)は我われ国民が納めた税金です。それを分けてやるから、(まだ生産されていないらしい)改良いかだを買え、発信機と無線機は自腹な、ということでしょうか。

 

※追記:その後、遊漁船は国交省が取り扱う補助金の対象外であり、補助金は監督官庁である水産庁管轄との返答が行われた。肝心の水産庁は財務省に5億円の補助金を申請中との返答、当事者である遊漁船業者が孤立無援のまま、安全装備を購入・管理・維持せざるを得なくなる状況が明らかになる。

 

 その結果、遊漁船の負担が増大、やむなく乗船料が上がり、釣り人の負担が増え、ハイコストに起因する無理な業務競争で事故が起こる、そんなディストピアさえ想像できます。

 

 なお「船舶安全法施行規則等の一部改正」について説明会を希望される場合、水産庁の沿岸・遊漁室が窓口となり、国交省とともに説明会を開いていただけるそうです。

 

問い合わせ 水産庁沿岸・遊漁室

☎︎03・3502・7768

 

【写真】

▲国交省の担当者に突然補助金の用紙を送りつけたことに関して、事前の説明が行き渡っていたと思うか、と問うと、対象業者のひとつなので送ったとの返答だった

 

悲劇を繰り返さないため立ち上げた知床遊覧船事故対策検討委員会のメンバーに遊漁船関係者の名前がないことは決して不自然ではない。その提言を遊漁船にそのまま当てはめた強引さが不自然だ

 

▲11月2日に東京・フィッシング会館で行われた説明会には遊漁船船長も出席した

 

 

05

▲小型旅客船等安全対策事業費補助事業のホームページを見ていると遊漁船は「非常用位置発信装置」「法定無線機」の補助対象外のようだが……

 

 


 

 

「船舶安全法施行規則等の一部改正」

(まとめ・つり情報社 沖藤)

 

 知床で起きたカズワン沈没事故を受けて国土交通省は知床遊覧船事故対策検討委員会を設置、令和4年5月11日の第1回検討委員会より同12月22日の第10回、さらに令和5年10月12日のフォローアップ委員会を含めのべ11回にわたり委員会が開かれ、7項目におよぶ「旅客船の総合的な安全・安心対策」がまとめられた。

 

 その3つ目に「船舶の安全基準の強化」という項目がある。

 

①法定無線設備から携帯電話を除外

②業務用無線設備等の導入促進

・船首部の水密性の確保

③改良型救命いかだ等の積付けの義務化・早期搭載促進

 等が盛り込まれ、国土交通省は船舶安全法施行規則等の一部を改正する。

 

①~③を付けたのは、この3項目が遊漁船にも適応されるため。

 

 分かりやすく言うと「定員」「航行区域」「水温」などの条件が該当する遊漁船は、これから先、上記の①~③を搭載しないと営業できませんよ、という規則が導入されようとしている。

 

具体的には

①法定無線設備から携帯電話を除外→「法定無線設置義務化」

 

 遊漁船においては携帯電話がつながる平水を除く、限定沿海、沿海を航行する遊漁船に適応。VHF無線機、MF無線電話、衛星携帯電話などを設置することが義務化される。

 

・遊漁船への適用は令和7年4月1日以降の中間検査より

 

※資料 法廷無線機 国交省資料より転載

 

 

②業務用無線設備等の導入促進→「非常用位置等発進装置(EPIRB等)義務化」

 

 平水を除く限定沿海、沿海を航行する遊漁船は事故発生時に位置を発信する装置、EPIRB(イパーブ)、またはAISの搭載が義務化される。

 

・遊漁船への適用は令和7年4月1日以降の定期検査より

 

※資料 補助発信機 国交省資料より転載

 

 

③改良型救命いかだ等の積付けの義務化・早期搭載促進→「改良型いかだの搭載義務化」

 

 改良型いかだが搭載対象となる遊漁船は少々複雑。ご自分で確かめていただくことを強くおすすめします(サイトは文末に紹介)。目安となるのは水温で、①水温10度未満の海域、②10度以上15度未満、③15度以上20度未満のうち、

 

①は河川や港内、一部河川のみをのぞく全ての船舶

 

②は限定沿海以遠(港から往復2時間以上)の海域を航行する場合

 

に改良型救命いかだの搭載が義務付けられ

 

③の海域はほぼ該当しません。

(水密全通甲板を持っている船舶は限定沿海以遠でも搭載義務がかからない。※水密全通甲板について詳細は資料参照、または国交省に問い合わせ)

 

このほか特例が5例記載されていますが、基本的に上記に変わりはありません。

 

・遊漁船への適用は令和7年4月1日以降の定期検査より

 

※資料 対象海域 国交省資料より転載

 

公布日は令和5年12月下旬

施行日は令和6年4月1日

(遊漁船は令和7年4月1日以降)

 

 

※引用・転載元

 

令和4年度補正予算

小型旅客船等安全対策事業費補助事業

https://marine-safe.jp/marine-safe/

 

「船舶安全法施行規則等の一部改正」

1.義務化の方向性
(1)法定無線設備 (2)非常用位置等発信装置(EPIRB等)

2.補助の概要・流れ

https://marine-safe.jp/marine-safe/pdfviewer/assets/pdf/pulldown1/義務化の方向性(国交省説明資料).pdf

 

 

「船舶安全法施行規則等の一部改正」

1.義務化の方向性(改良型救命いかだ等) 2.改良型救命いかだ等の設置場所・定員への影響等 3.補助の概要・流れ

https://marine-safe.jp/marine-safe/pdfviewer/assets/pdf/pulldown1/kogataryokyakusenn_anzentaisaku.pdf

 

 

パブリックコメント

船舶安全法施行規則等の一部を改正する省令案に関する意見募集について

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1014_CLS&Type=0&Bunya=0000000040#

 

 

知床遊覧船事故対策検討委員会名簿

https://www.mlit.go.jp/common/001483288.pdf