「船舶安全法施行規則等の一部改正」における遊漁船の安全基準の強化・義務化まとめ
『隔週刊つり情報』発行人・沖藤武彦
はじめに
この原稿は令和5年11月2日、日本釣りジャーナリスト協議会・日本釣振興会・遊漁船船長有志による依頼で開催された国交省・水産庁による説明会と、同年11月10日の日本釣りジャーナリスト協議会における国交省・水産庁担当者の説明および質疑応答に基づいて、一部資料を引用しながら、11月3日の編集日誌号外、後半部分の遊漁船に関わる部分を加筆・整理してまとめてあります。資料については予告なく更新される場合がありますので、文末のURLよりご確認ください。
【いかだ省令のいきさつ】
知床で起きたカズワン沈没事故を受けて、国土交通省は知床遊覧船事故対策検討委員会を設置、令和4年5月11日の第1回検討委員会より同12月22日の第10回、さらに令和5年10月12日のフォローアップ委員会を含め、のべ11回にわたり委員会が開かれ、7項目におよぶ「旅客船の総合的な安全・安心対策」がまとめられました。
その3つ目に「船舶の安全基準の強化」という項目があり、以下の内容が記されています。
※①〜③数字は沖藤による加筆
①法定無線設備から携帯電話を除外
②業務用無線設備等の導入促進
・船首部の水密性の確保
③改良型救命いかだ等の積付けの義務化・早期搭載促進
これらを盛り込み、国土交通省は船舶安全法施行規則等の一部を改正します。
これが今回の「いかだ省令」とも呼べる省令のいきさつです。
①~③を付けたのは、この3項目が遊漁船にも適用されるため。
分かりやすく言うと「定員」「航行区域」「水温」などの条件(下記にて説明)が該当する遊漁船は、これから先、
上記の①~③を搭載しないと営業できませんよ、という規則。
それが上の①〜③。
具体的には
①法定無線設備から携帯電話を除外→「法定無線設置義務化」
遊漁船においては携帯電話がつながる平水(湾内など)を除く、限定沿海、沿海を航行する遊漁船に適応。
VHF無線機、MF無線電話、衛星携帯電話などを設置することが義務化されます。
◉遊漁船への適用は令和7年4月1日以降の中間検査より
※資料 法廷無線機 国交省資料より転載
②業務用無線設備等の導入促進→「非常用位置等発進装置(EPIRB等)義務化」
平水(湾内など)を除く限定沿海、沿海を航行する遊漁船は事故発生時に位置を発信する装置、EPIRB(イパーブ)、またはAISの搭載が義務化されます。
◉遊漁船への適用は令和7年4月1日以降の定期検査より
※資料 補助発信機 国交省資料より転載
③改良型救命いかだ等の積付けの義務化・早期搭載促進→「改良型いかだの搭載義務化」
改良型いかだが搭載対象となる遊漁船は少々複雑なので、ご自分で確かめていただくことを強くおすすめします(サイトは文末に紹介)。
目安となるのは水温(気象庁等のデータを元に、全国107海域+湖に区分。気象庁が公表している過去30年間(瀬戸内海は5年間)の海面水温の平均値を元に基準を設定)で、
❶水温10度未満の海域、❷10度以上15度未満、❸15度以上20度未満のうち
❶は河川や港内、一部河川のみをのぞく全ての船舶
❷は限定沿海(港から2時間で往復できる範囲)以遠を航行する船舶
に改良型救命いかだの搭載が義務付けられ
❸の海域はほぼ該当しません。
(水密全通甲板を持っている船舶は限定沿海以遠でも搭載義務がかからない。※水密全通甲板について詳細は資料参照、または国交省に問い合わせ)
※資料 対象海域 国交省資料より転載
水温により区分を分ける根拠は、遭難時、人間が海上において生存することが可能な時間。前記の知床遊覧船事故対策検討委員会において、医師、海難救助の専門家などを交えて検討した結果導入されています。
その結果、❷の、10度以上15度未満の海域から北、おおまかに言うと
太平洋側は外房大原周辺から北
日本海側は玄界灘より北
瀬戸内海の平水以外は
平水など一部をのぞき、すべての遊漁船に改良型救命いかだの搭載が義務付けられます。
海域と、水温の確認は、国交省の令和4年度補正予算小型旅客船等安全対策事業費補助事業
内にある「海域早見マップ」にて確認できます。
例:千葉県北東部沿岸
例:北九州・玄界灘・響灘
このほか特例が5例記載されていますが、遊漁船の実情(港から5海里離れる、通年営業する)に照らし合わせた場合、基本的に上記に変わりはありません。
◉遊漁船への適用は令和7年4月1日以降の定期検査より
公布日は令和5年12月下旬
施行日は令和6年4月1日
(遊漁船は令和7年4月1日以降)
これらの省令による義務化と、それにともなう補助金について、遊漁船船長より相談を受けたことをきっかけに、説明会が始まったいきさつと、遊漁船への義務化における問題点、公布直前まで遊漁船および関係者、自治体などへの周知が行われなかったことへの質問などは、編集日誌11月3日号外(https://mobile.tj-web.jp/news/1954-12-2)にあるとおりです。
【引用・転載元】
令和4年度補正予算
小型旅客船等安全対策事業費補助事業
https://marine-safe.jp/marine-safe/
「船舶安全法施行規則等の一部改正」
1.義務化の方向性
(1)法定無線設備 (2)非常用位置等発信装置(EPIRB等)
2.補助の概要・流れ
https://marine-safe.jp/marine-safe/pdfviewer/assets/pdf/pulldown1/義務化の方向性(国交省説明資料).pdf
「船舶安全法施行規則等の一部改正」
1.義務化の方向性(改良型救命いかだ等) 2.改良型救命いかだ等の設置場所・定員への影響等 3.補助の概要・流れ
海域早見マップ
パブリックコメントはこちらから
船舶安全法施行規則等の一部を改正する省令案に関する意見募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1014_CLS&Type=0&Bunya=0000000040#
「船舶安全法施行規則等の一部改正」の元となる「旅客船の総合的な安全・安心対策」をまとめた
知床遊覧船事故対策検討委員会名簿