『隔週刊つり情報』発行人/沖藤武彦

 

大前提として、遊漁において最優先されるべきは人命と安全・安心であることに疑いの余地はありません。

 

カズワン事故の教訓として、遊覧船業者だけなく私たち釣り人やメディア、遊漁船業者も学び生かすべき教訓は多いと考えます。

 

事故の大きな要因のひとつに、監督省庁、検査機関、つまり、国土交通省と、日本船舶検査機構(JCI)が現場の実情を把握しておらず、検査での見落としがあったことが指摘されています。

 

救命装置、船の構造、連絡システムにおいて時代に即して万全を期すことは必須ながら、その土台となる現場の実情を国交省は把握しているのか(カズワン事故の根底にあることだと思います)、甚だ疑問に思うところ満載なのが、今回の「船舶安全法施行規則等の一部改正」における遊漁船の安全装備義務化です。

 

※以下の内容は11月10日の日本釣りジャーナリスト協議会・定例会において、国交省、水産庁の担当者計5名出席のもと行われた説明会(沖藤はオンラインにて参加)を元としております。

 

あえて「いかだ省令」と呼びますが、改良型救命いかだの義務化は、遊漁船業者や東京都をはじめ各自治体の漁政課などには周知されていません(この点について国交省は8月にオンライン説明会を開催したと返答していますが、遊漁船への周知とは別次元です)。

 

それなのに、10月下旬、遊漁船業者のもとに(いかだ購入に際した)「補助金」の案内が届きます。

 

そして補助金案内送付の後、11月10日の日本釣りジャーナリスト定例会における質疑応答で、今度は国交省が

 

補助金は遊漁船に出ません。

 

と返答します。

 

11月2日の遊漁船業者を交えた説明会では、

 

「補助金が出る」

 

としか解釈できない説明をしていた国交省が、突然、遊漁船には補助金が出ません、と明言。

 

であれば、そもそも、なぜ、遊漁船業者の元に「補助金」の案内が届いたのか。

 

この疑問に対する国交省の説明を要約するとこうです。

 

「登録されいる旅客船をそれぞれの事業主が遊覧船に使っているのか、遊漁船に使っているのか把握していない。だから、船を登録している業者に(遊覧船に適用される補助金の案内を)送った」

 

つまり、旅客船という器を持っている業者に送っただけで、判断はあなたたちがしなさいよ、という理屈になります。

 

ならば、船宿に送りつけた書面のどこかに

 

・遊漁船に(条件によっては)改良型救命いかだの搭載が義務化される

 

・国交省の補助金は遊漁船は対象外

 

・お持ちの船を遊覧船に使用する場合のみ補助金をご申請ください

 

とでも書いておくべきでしょう。

 

それが、まったくないのです。

 

あまりの雑さに、11月10日の説明会はだれもが呆れました。

 

国交省が遊漁船とその業態を知らないとしか思えないやり取りです。

 

では、遊漁船の補助金はどうなるのかというと、

 

遊漁船の監督官庁である水産庁が担当するそうです。

 

その水産庁は財務省に(第一回目として)5億円の予算を申請しているそうですが、出るか不明。省令が年末に公布されて以降の補助金というのは難しいとか。

 

これにも唖然、なんでそんなに遊漁船への補助金申請が遅いのか。

 

百歩譲って補助金の初動の遅さを不問としても、ならば水産庁は、国交省に対して、遊漁船へ経済的補助が行われる見込みが薄く、かつ、現場に即した規制とするべく、今回の省令の遊漁船への適用方法や特例措置を協議しましょう、と働きかけるべきです。

 

もちろんそのような意見は11月10日も多数出ました。たとえば小型の遊漁船がさらに安全を確保しつつ営業が続けられるよう、遊漁船を管轄する水産庁がルール作りに関わり、審議してほしいなどなど。

 

国交省と水産庁、それぞれの担当者が並んでいる場で、です。

 

それに対する水産庁の答えは

 

法律(船舶法と思われる)の土台というものがあって、それを作っているのは国交省で、水産庁は関わることができない。

 

といった内容。つまり、

 

補助金は担当させられるけど、規則については口出しできないそうです。

 

たまらないのは、遊漁船業者です。

 

義務化と検査は国交省(&JCI)から厳格に。

 

負担の補助は水産庁からで見込み薄。

 

つまり、文句も言えず、このままでは補助金も出ません。

 

なのに、営業を続けたければ、(条件により)許可される通信装置、自動位置発信装置(ここまでで30万円ほど)、そして海域によっては改良型救命いかだ(110万円以上+ランニングコスト)を導入しなくてはなりません。

 

ちなみに遊覧船は、申請すれば国交省が補正予算で補助します。

 

質疑応答では、パブリックコメントや業者の声があれば、国交省が遊漁船に補助金を出すことがあるのか、との問いがありました。

 

その質問に対する国交省の答えは

 

「遊漁船に補助金を出すことはありません」

 

今回の質疑応答にて、最も明確な答えでした。

 

 

 

↓パブリックコメントはこちらから


「船舶安全法施行規則等の一部を改正する省令案に関する意見募集について」
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1014_CLS&Type=0&Bunya=0000000040&fbclid=IwAR0d0kj-WfdKL2digY-0qHVKYku9SP8kkWKzRHU47JWNiU7NZVmdyQAscBw

 

国交省海事局安全政策課 船舶安全基準室
☎︎03-5253-8111 内線43-561
 
 

「船舶安全法施行規則等の一部改正」について説明会を希望される場合、水産庁の沿岸・遊漁室が窓口となり、国交省とともに説明会を開いていただけるそうです。

問い合わせ 水産庁沿岸・遊漁室

☎︎03・3502・7768